『バトンの星』(矢島光)1巻、みんな読んで

バトントワリングという競技を知っていますか。ぼんやりとしたイメージしかない人も多いと思うので、こちらの動画をご覧ください。バトントワリングの世界選手権のダイジェスト動画です。


2018 World Senior Women Finalists


2018 World Senior Men Finalists

このような大会に出る選手のテクニック、ボディワークのスピード感やしなやかさには圧倒されますね。女子のイメージが強いかもしれませんが男子選手もいますし、そのレベルも高いです。個人だけではなく集団演技もあります。

 

で、私の御託はともかく、この漫画を皆さん読んでほしいんです。 

バトンの星 1 (ヤングジャンプコミックス)

バトンの星 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

こちらで第1話を無料で読めます。

バトンの星 サンプル | 漫画(コミック)・電子書籍ならコミなび

 

私は経験者ではないのですが、バトン業界の端っこの端っこに関わっていたことがありました。バトンを題材にした漫画ってないのかなあ、と考えたことがあったのですが、往年のスポーツもの少女漫画と差別化するのが難しそうと感じたものです。

 

この『バトンの星』は週刊ヤングジャンプ、すなわち青年誌に連載されていた作品です。主人公も、現在進行形でバトンの世界で高みを目指す少女ではなく、青春をバトンに捧げバトンの名門大学まで進学したものの、現在は冴えない生活を送るアラサーOL。そんな彼女がひょんなことから男子高校生バトン選手を指導することになって…というあらすじなんですが。

 

私が震えたのは、バトン演技描写の迫力です。選手のボディワークのキレ、高速回転するバトン、バトンを落とすこと=ドロップへの恐怖とスリル、まさしくバトントワリングです。自分がかつて体育館で目に耳にしていた光景がありありと蘇り、鳥肌が立ちました。バトンがフロアに落ちる音まで聞こえてくるようです。

自身もバトン経験者という作者の矢島光さんは、ヤングジャンプに掲載するにあたり編集部に「絵の修行」を命じられ、美術予備校に通ったり、他の漫画家のアシスタントを行ったりとかなり苦労されたようです。

バトントワリングの漫画が始まってもしんどいのにそれまでもしんどすぎた|矢島 光|note

それもにわかに信じられないほど、端正な絵柄でバトン演技を行う選手の身体性が生き生きと描かれています。

 

かつて頂点を目指していたものの現在は毎日ぱっとしないOL、という主人公を置くことで、バトンに馴染みのない読者にも共感をもたらす作用はあると思います。しかしそれだけではなく、一流選手の身体能力、一見華やかな演技の裏には地道な反復練習が必要であること、何事にも通じる「続けること」の困難さが丁寧に描かれています。そのあたりは青年誌という場で連載された作品ならではかもしれません。

 

物語はこの1巻で完結しています。単行本の売上次第では続編も…?という声もあったようなのですが、どうやら作者ご本人のTwitterによると、続編はないとのこと……。

矢島 光 (@hikarujoe) | Twitter

 

紙面いっぱいから熱が迸るこの作品を、このまま埋もれさせてしまうのは本当にもったいない。一人でもこの作品に触れる人が増えるよう、陰ながら祈っております。

 

ティーズ!アテンション!サリュート!アティーズ!

 

※バトンで言う「気をつけ、礼」のようなものです。