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2013年ライブ総括:後編(五十嵐隆「生還」)

7.五十嵐隆「生還」@NHKホール(5/8)

はい、当エントリの大本命です。

ライブ前、どんなライブになるかまったく見当がつかなくて、ラップやったらどうしようとか言ってましたね…。

 

「まもなく開演です」のアナウンスが流れて背筋を伸ばした瞬間。青いライトで照らされた幕の向こうからギターの音が聴こえてきて、それが「Reborn」だと分かって、声が響いた瞬間。

 

そして何より。「Sonic Disorder」のイントロのベースを弾いているのは、スポットライトにあてられているキタダさんだと分かって、青いドラムセットを叩いているのは金髪の中畑さんだと気付いて、syrup16gの三人がいるステージの全貌が見えた瞬間。

私はこの瞬間にあれからずっと縛られています。

目の前で信じられない光景が2時間繰り広げられた。ライブの体験としてでのレベルではなく、人生のレベルで考えてもちょっとあんなことはそんなには起きない。

 

「Reborn」、「Sonic Disorder」、「神のカルマ」に続いて「I・N・M」の演奏が始まったとき、この曲もやるのかと驚いた。五十嵐さんの歌声の艶が増していて、安定している。その声でシロップの曲ばかりを歌っている。そして中畑さんのドラミングが壮絶そのものだった。「空をなくす」での、Aメロで細かいハイハットの刻みと爆発するサビの抑揚は殺されるかと思った。2013年は中畑さんがドラムを叩いているライブに随分足を運んだけれども、「生還」のときほど中畑さんのドラミングに殺気を感じたことはなかった、と思うのは私がシロップ贔屓だからなのか。いずれにせよ、中畑さんのドラミングがライブに迫力と張りつめた緊張感を与えていた。

 

五十嵐さんが表舞台に立っていなかった4年間で変わったもの、変わらなかったもの。変わったものは歌唱力、ギターの演奏力(映像で確認する限りでもちゃんと弾けていたのを観たことがなかった「生活」のギターソロを、間違えずに弾き終えた!)、予想よりずっと落ち着いていた佇まいか。弾き語りで聴かせた「明日を落としても」での歌声は穏やかで、明日を落としても誰も拾ってくれないことを悲しみ嘆くのではなく、そっと優しく認めるような響きをしていた。変わらなかったものは、新曲での相変わらずしみったれた80sのセンス、そして一生不安だ、と歌う歌詞。

 

あのときの三人は紛れもなくsyrup16gというバンドだった。アンコールで五十嵐さんが、この曲ができたとき中畑くんちにチャリンコで行って、と語って「翌日」の初期verを一人で歌ったこと。その後ステージに現れた中畑さんが、五十嵐さんの写真がプリントされた物販のTシャツを着ていたこと。

ライブを観ながら、ああこれから三人でツアーとかするんだろうなあ、仕事と被らないといいなあ、きっと出口に今後の予定が書かれた貼り紙があるんだろう、と考えていた。ライブ後の会場に貼り紙はなかった。数か月待っていたら、UKFC(@新木場STUDIO COAST、8/21)に五十嵐さんが弾き語りで出演するという知らせが来た。UKFCで五十嵐さんはシロップの1stアルバム『COPY』収録曲を一人で歌った。三人で音楽をやるという知らせはまだ来ていない。一人で音楽をやるという知らせも。

 

色々な人と話し、シロップ解散ライブ前の五十嵐インタビュー(『音楽と人』2008年2月号)を読み、五十嵐さんはやはり今でもあの三人で音楽をやりたいと思っているのではという思いが日々強くなっていった。

インタビューで、本当はシロップを解散させたくないと吐露し、ソロ名義で一度解散したそのバンドのメンバーと一緒にライブを行った。悲しいほどかっこ悪い。かっこ悪くていいから、また活動をして「生還」の記憶に囚われ続けている私たちを解放して欲しい。こっちだってこんなこと言うのかっこ悪いの分かってるし申し訳ないけど、悲しいまま終わらせたくないんです。ダサいのがなんだよ、ダサいぐらい我慢しろよ!という『あまちゃん』でのアキの言葉を五十嵐さんにぶつけたい。

ただ、五十嵐さんが音楽を棄てる訳がないという根拠のまったくない確信が毎日自分を支えている。そんな思いも五十嵐さんにとって重荷になっているだろうとは思うけど、せめて待つのだけは許してください。今年もそんな、整理がまったくつかない気持ちのままでシロップを聴いて五十嵐さんを待つのだと思います。この文章も、どうやって終わらせたらいいのか分からなくなってきてしまった。

 

だから最後にはシンプルな言葉を。五十嵐さん、中畑さん、キタダさん、素晴らしいライブをありがとうございました。今年の音楽活動も楽しみにしています。シロップ以外のものも。また三人のライブが観ることができる日を、今年も夢見ていると思います。