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syrup16g 『Hurt』全曲レビュー

2013年ライブ総括:後編(五十嵐隆「生還」) - everything is wrong but you

 これを書いたのが今年の1月。その後、映像化されていなかった『生還』のDVDおよびBru-rayが6月1日に発売。そしてsyrup16g再結成が発表されたのが6月27日。8月27日にはアルバムリリース。9月からは東名阪ツアーが始まる。ずっとずっと待ち焦がれていたことが、期待通りの、いや期待以上のボリュームで現実のものとなった。五十嵐隆へのインタビューによると、再結成が正式に決まったのが今年の1月頃ということで、先述の記事を書いた時期とほぼ同じ。syrup16gへの募る思いをぶちまけた頃からこんな現実が決まっていたと考えると、それなりに人生には「答え」が用意されているのかなあ、とかなんとか。 

 で、このアルバムです。  

Hurt

Hurt

 

 店頭入荷日に購入してから3日経ったけど、聴いていてtwitterでは書ききれないほど沢山の思いと言葉が頭の中で溢れて止まらないので、こうやって全曲レビュー(=感想垂れ流し)を行おうと思った次第。なるべく自分に素直に、好きなところもそうでないところも書こうと思います。

 まずは全体の感想から。

 最初一通り聴いた時の感想は「歌謡ロックの金字塔」です。発売前のレビューでは、グランジやシューゲイズという言葉が多く用いられていたけど、実際はそれより歌謡曲要素、80s要素を強く感じた。五十嵐さん本人が公言しているように、syrup16gは80sポップス/ロックに強い影響を受けていて、そこが他のバンドと一線を画す部分だと思う。syrup16gのそうした80s部分が以前からとても好きだったので、その部分を拡張した作品を聴いてみたいと密かに望んでいた。だからこのアルバムは、再始動アルバムという点を抜いても、すごく嬉しかった。

 自分自身の音楽の原体験は小学生の頃に好きだったラルクなんだけど、99年に同時発売された彼らの『ark』『ray』を聴いた時のことを少し思い出した。ラルクsyrup16g、まったく異なる地平に立っているようで、世代も近く影響を受けた音楽も重なっているバンド。今回の『Hurt』は、今までのsyrup16gに煌びやかさが加わって、『ark』『ray』を聴いた時の高揚感が蘇るようだった。 

 今作の歌詞は五十嵐さんが「犬が吠える」解散後に自宅に引きこもっていた時期のことを多く掬っているようで、当然その葛藤や虚無感を反映した言葉に溢れてはいるんだけど、かつてのように直接自分を傷みつける言葉はあまり見られない(一人称もあまり登場しない)。具体的に何を指しているのかすぐには判断できない、抽象的な言葉も多い。だから、一緒に俯いてくれるような言葉を求めていた人にとっては物足りなかったと思うし、自分自身も青春は終わったと告げられているように思えて少し寂しくなった。しかし「安心だけはしない 死ぬまで」(「理想的なスピードで」)と、「生活」(『COPY』収録)で「心なんて一生不安さ」と歌っていた頃と変わりないことも言っているので、精神性自体はブレていないということなんだろう。

 そして何より強調したいのは演奏や歌から放たれるエネルギー。演奏、解散してから6年経って再結成したバンドとは信じがたいほどエネルギーに溢れまくってるんですよ。ものすごくパワフル。そこが一番びっくりしたし、嬉しかった。syrup16gは内省的でジメジメうずくまっているだけのバンドじゃないということを証明してくれた。しかも若々しいんだけど、随所で熟練さを感じさせる。すごい。 

「生還」の際に、特に中畑さんの覚醒っぷりに感動したので、今作にもとっても期待していた。五十嵐さんの歌も深みが増して、見違えるように音程も安定していたので、早くそのボーカルが収録された作品を聴きたかった。今作にはしっかり、二人の進化(前者はsyrup16g解散後のVOLA & THE ORIENTAL MACHINE等のバンドや各サポートでの活動による、後者はヒトカラによる)の結果が残されているので満足。キタダさんのメロディアスなベースも、今作でもグイグイ曲を引っ張っている。ベースラインの美しさは一層磨きがかかっている。

  という訳で全曲レビューです。  

 

1.Share the light

 すわグランジ通り越してもはやハードロックか?とすら思ってしまう幕開け。ギターもベースもゴリゴリ。恐らく、syrup16g史上もっともへヴィ。活動再開して初めて出すアルバムの1曲目がこれって、リスナーの反応は戸惑うか面白がるかに分かれるのではないかなあ(私は戸惑った方)。「Share the light  Sheer the light  Shere the ray  Sheer the light」のシャウトが繰り返され高揚を煽る。メロディとギターがユニゾンになっているので、ライブでどう演奏されるのか(ちゃんと弾きながら歌うのか)不安…いや興味深い。よく聴くと、終盤のベースのフレーズがエグい。歌詞は福島原発事故以降の世情を想起させる内容で、そういえば過去にもアフガン戦争・イラク戦争を思わせる歌詞(ex.「Hell-see」[『HELL-SEE』収録]、「パープルムカデ」[『Mouth to Mouse』収録])を書いていたなあと。五十嵐さんは自己言及だけに終始する人ではなかったな、確かに。 

 

2.イカれた HOLIDAYS

 アルバム曲の詳細が発表になった時から、その曲名でファンをざわざわさせていた曲。蓋を開けてみると、哀愁を漂わせた歪んだ音のギターストロークで始まる、過去のsyrup16gの延長線上にあるマイナー調のミディアム・ナンバー。『Mouth to Mouse』や『syrup16g』に収録されていても違和感なさそう。ただ、当時だったら自らをナイフで八つ裂きにせんばかりの自虐的な言葉で歌詞を埋めていそうだけど、この曲ではずぶずぶ沈むような悲壮感はない。五十嵐さん本人が、「犬が吠える」解散後に自宅に引きこもっていた時期を歌った曲だと思われるのに。歌詞に「僕」や「俺」といった一人称が用いられず、抽象的な言葉が連なっているせいか。

 高音を多用した歌うベースラインと、メロディがただただ美しい。ベースソロが活かされた間奏も絶品。「そう 言われた通りで そう イカれたHOLIDAYS」の箇所で高い音程をしっかり歌えているところに五十嵐さんの歌唱力の向上を感じる。ファン以外の、80sの湿ったロックが好きな方にもぜひ聴いてもらいたい。とても好きな曲。

「振動の無い六弦を 切り裂くように鳴らす たわむ」ってところ、このイカれたHOLIDAYSの間、ギターをずっと弾いていなくてチューニングをしていないから、弦がたわんでいたということですよね…。 

 

3.Stop brain

 ネオアコを思わせるクリーントーンのギターと、New Orderを思わせるベースフレーズにディスト―ションギターが被せられて、4つ打ちのバスドラが鳴る。そして木下理樹のボーカルが…流れてきません。イントロを聴いた時、本当に木下さんのボーカルが聴こえてくるんじゃないかと思ったほどART-SCHOOLを思い起こした。木下さん、やっぱりこういうの好きなんすね。

 そんなことより、なんて若々しい曲でしょう。New Order風のベースリフが強調されている辺りは40代を感じさせますが、若手バンドがフェスでやってそうな曲だな!というのが第一印象。歌詞もどことなく青臭い。ただ、ここでは9拍子(4拍子+5拍子?)が用いられていて、そこに引っ掛かりを持たせている。そしてサビでは「思考停止が唯一の希望」と延々と叫ばれる。五十嵐さんらしいネガティブさだけど、この清々しい曲調で叫ばれてしまうと、思考停止することを肯定的に捉えてしまいそう。いや、時に思考停止って本気で大事だよね…。

 Aメロの細かいハイハットの刻みに、中畑さんがVOLA & THE ORIENTAL MACHINEでやってきたことの結果が滲んでいるような。あと「君とおんなじように生きてみたいけど 君もおんなじように生きていくのはとても大変で」の箇所で、メロディとベースの絡みにうっとりさせられる。syrup16gにしかできないことって、こういうことなんじゃないかな。

 

 4.ゆびきりをしたのは

 イントロのフーウー♪というファルセット、クッサい単音ギターフレーズ、サビ前のわざとらしいまでのキメ、マイナーコードで疾走するメロディ、はい見事なまでに歌謡ロックです!!!!最高!!!!!!

 まず「ゆびきり」っていう言葉のチョイスね。昭和感溢れるおじさんくさいセンチメンタリズムいとおしい。しかも五十嵐さん本人も「ゆびきり」という言葉に関して「気持ち悪いと思われたら、すみませんっていうのはありますけど………(苦笑)」(『MUSICA』2014年9月号インタビューより)とか言ってるし、倍増しになるいとおしさ。

 家にいる時に聴いていると高確率で熱唱している。ギターソロの間でキーがメジャーに転調して「勇気を使いたいんだろ」を連呼するところなんかもうね。ダサさ極まってる。でも無性に盛り上がるんですよね!!最強!!!イェーイェーイェー!!アーハーン!!はよカラオケで歌いたい。

 それでも下品になっていないのは、サビのメロディのさすがの美しさと五十嵐さんの歌声の艶のおかげだと思う。歌詞の「応援してるだけさ」には驚いたなあ…。

 

 5.(You will) never dance tonight 

 そんな歌謡ロックから一転、90s UKギターロック直系ナンバー。これもまたざらついたギターが特徴で、『syrup16g』等にも収録されていそうな。ううーん、特筆すべきところがあまり見つからない…。

 と、この項目を終わらせようとしたんだけど、繰り返し聴いているうちに不穏な雰囲気がハマってきた。スルメ曲か。

 

 6.哀しき Shoegaze


The Police - Hole In My Life - YouTube

 シューゲイズと言いながらシューゲイザーではない、つんのめるリズムがかっこいい曲。イントロのギターフレーズの後に雪崩れ込む感じが良い。アルバムの中で最も強くバンド感がある印象を与える。ドラムかっこいい。たいこー!

 まあ各所で言われている通り「実弾(Nothing's gonna syrup us now)」(『Mouth to Mouse』収録)に似ているんだけど、こっちの方がエネルギッシュなので好きですね。

 五十嵐さんが、この曲を制作するにあたり中畑さんに聴かせたというThe Policeの「Hole In My Life」を聴いてみました(上記You Tubeリンク)。なるほどね…。 

 それにしても、「軽めの十字架背負い」とか「残念ながら冒頭で再放送」とか、相変わらずの五十嵐節だなー。

 

7.メビウスゲート

歌詞だっさ!!

 失礼しました。この曲の第一印象はこれでした。「低賃金ハードワーカー 軋む歯車」ってあなた。

 発売前の雑誌レビュー等で、この曲はディスコ・ファンク調だと書かれていたのでずっと気になっていました。syrup16gでファンク調の曲といえば、『HELL-SEE』収録の「I'm 劣性」。「I'm 劣性」大好きなので、かなり期待していました。そしたら、予想以上のサタデー・ナイト・フィーバー感。現代社会に横溢するカタカナ語と経済用語(?)を重ねた歌詞に、かえって得も言われぬ80s感。隆の歌もノリノリ。どことなく岡村靖幸っぽい気がしないでもない。

 好き勝手申しておりますが、この曲に五十嵐さんの、リスナーとしての音楽に対する好奇心が窺えて嬉しい。プラスティックなクリーンギターのカッティングは、他のsyrup16g楽曲では聴けないものだし、リズム隊のアンサンブルも鉄壁。ライブでどう演奏するのか、一番気になる曲であります。

 

 8.生きているよりマシさ


syrup16g - 生きているよりマシさ (MV) - YouTube

 このアルバムのリード曲。発売前にMVが公開された時、メロディの良さに魅了されつつも若干地味な印象を受けたけれども(そして「キョドっちまう」とか「ショボ過ぎて」といったお喋りの延長のような歌詞にものぞけった)、アルバムの流れの中で聴くと、これはなかなか…。

メビウスゲート」のバブリー(?)な空気から、この曲に移りざらついたギターが鳴らされた瞬間、日常生活に戻される。『COPY』等の初期作を彷彿とさせ、「苛立ちながら過ごした日々」にいた、今より若かった彼らと私たちに出会うようではないですか。キャッチーで切なく美しいメロディが光るミディアム・ナンバーという意味では、「さくら」(『syrup16g』収録)に比肩する名曲だと思います。

 様々なところで絶賛されていて、そして私もtwitterで何度も触れたところですが、もう一度ここで触れたいCメロの歌詞。

君と居られたのが 嬉しい

間違いだったけど 嬉しい

会えないのはちょっと 寂しい

誰かの君になってもいい 嬉しい

 他の箇所より高いキーで歌われることで、強がりのような本心であるような、複雑な感情が強調されていてたまりません。この直前の部分からのメロディの繋がりも非常に美しい。そしてこの箇所でベースが寄り添うように盛り上げているところも見逃せない。リズムやメロディだけではなく、歌詞をも引き立てるキタダさんのベースがとても好きです。 

 全体的に、曲調も歌詞も軽い印象を与えるんだけど、その背後にある泥沼葛藤地獄が見え隠れする…。

 

9.理想的なスピードで

「泣いてる?」なんてからわれても

「意味が分からない。馬鹿じゃん」

ぐらいしか言い返せないけど

 なんだこれは。40代男性が書く詞ではない(かわいい)。あと「驚愕の心理 このまま 子供でいれると思っていたのに」というフレーズにこちらも驚愕した。41歳で、まだ子供でいられると思っていたのか。でも切実な本音なんだろうなあ。

 一口にシューゲイザーと言っても色々あると思うんだけど、この曲は柔らかい陽光を思わせる穏やかなシューゲイザーサウンド。SlowdiveとかLushとかの(五十嵐さん曰く、Galaxie 500やLowを意識したそうですが)。前の「生きているよりマシさ」と次の「宇宙遊泳」をうまく繋ぐ存在。五十嵐さんへのインタビューによると、もともと終盤ではメジャーコードとマイナーコードが交互に来る形だったのを、キタダさんの提案によってずっとメジャーコードという形にしたらしい。その提案がすごく活きていると思う。サイケデリックさが心地よい。 

 

10.宇宙遊泳

 キタダさん一押しの曲。疾走するギターロック、でもリバーブのかかったギターのアルペジオやボーカルのせいで夢心地。Bメロからサビに至るまでのカタルシスが素晴らしい。美しい。こちらの『Hurt』レビュー(http://music.ima-drops.com/?p=90)にある「疲れた大人の、子供のような笑顔」という言葉が相応しい(ちなみにこのレビューもまた素晴らしいので、ここまで読んだ人は全員読んでください)。まだまだsyrup16gはこんなにも、夢のような、魔法のような音楽を作ることができる。 

 

11.旅立ちの歌

 五十嵐さん自身がボツにしようとしたけれども、周りに止められて収録したという1曲。ファンの間でも賛否両論な、アコギが掻き鳴らされるあまりにもポップで健康的な曲(MOON CHILDの「アネモネ」を思い出しました)。ライブで演奏しようもんなら、観客にハンドクラップを要求せんばかりの勢い。『coup d'Etat』や『HELL-SEE』の時期にこれを発表していたら、きっと五十嵐さん逆に周りにめちゃくちゃ心配されたと思う。ううーん、これは…。駄目な曲とは思わないけど、私もそんなに好みではないかな…。でも歌詞は個人的に励まされる部分もある。

 syrup16gのアルバムは余韻を残す曲で終わるというイメージがあるので、この曲でジャーン!!と終わるのは新鮮だ。

 

 レビューは以上。この作品は、syrup16gをちゃんと聴いたことがないという方にもぜひ聴いて欲しいと思うので、他のアーティスト名等も意識的に連ねました。今作は、syrup16gのメンバーがバンドの楽しさ、音楽の楽しさを体現しているような、幸せな作品だと思う。その幸せな時期が少しでも長く続くことを、心の底から願っています。